Dear ルキ

どこかのあなたへ

引越しました

ルキさま

 

ご無沙汰しております。しばらくお会いできていませんが、お元気でしょうか。

突然ですが、生まれ育った東京を離れ35歳にして夫と二人で千葉県南房総市に移住することになりました。といってもこのお手紙を書いている時点で、すでに引っ越してからちょうど一か月がたっています。

まさか自分が何の縁もない土地に、というか家族がたっぷりいる地元を離れるなんて思ってもいませんでしたが、これも夫と結婚したことによる運命の流れのひとつなのでしょう。

引越す前は「新しい人生がはじまる!」と、実は密かに舞い上がっていた面もあるのですが、今のところそれは半分当たっていて、半分はずれています。

前半の方はまず、当たり前ですが環境の変化です。具体的に言うと「緑」。ちょうど田植えが終わった時期に越してきたのですが、風に揺れ、波のようにうねる稲穂というのを初めて見て、心の底から幸せを感じました。お米というのはとても爽やかな姿形で育つものなのですね。

また寝室の窓からは山が見え、リビングの窓からは内房の海、その先に富士山が小さくですが、存在感をもってそのフォルムを主張しています。もちろん人の声はほとんど聞こえず、朝から夕暮れまでさまざまな鳥の鳴き声がしているのです。

こう書くと「どんな田舎に引っ込んだんだ!」と心配するかもしれませんが、そもそも我が家は素敵な古民家どころか一軒家でもなく、2DKの小さなアパート暮らしなんです。スーパーも百均も徒歩10分以内で、こじんまりとした町暮らしです。

とにかく自分の体が、心が?思っていたよりこの自然をよろこんでいるのを実感します。長くなってしまったので、後半の「半分はずれ」はまたの機会にお話しさせてください。

それでは尻切れになりますが、最後まで読んでいただいたお礼として最近読んだ本『ホモ・サピエンス』から知りえた知識を対価としてお支払いします。いきなりなんだ!と思うでしょうが、私の唯一の趣味とも言える読書から、せめてルキさんに何かお返しできないかと思い、今後はお手紙の最後に私なりの読書の成果を披露させてもらいますね。

それは私たちの総称「サピエンス」とは、「賢い」という意味だということです。何をもって私たちは自らのことを賢いなどと名付けたのでしょうか。少なくとも私個人はまったくサピエンスではありません。